戦略経営者

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※『戦略経営者』2005年3月号

PDCAサイクルを構築し黒字経営を貫く

機械工具の卸・販売業を展開してきた敬相は、商品流通体系の変化という逆境に怯むことなく、通信設備工事に必要な材料販売の分野に進出することで黒字経営を実現している。その背景にはTKCの『戦略財務情報システム(FX2)』と『継続MAS』の活用があった。その活用法などを同社の櫛田啓蔵社長(56)と原田伸幸税務会計事務所の監査担当・長谷川靖博氏に聞いた。

■商材の幅を広げて売上減少を回避

―事業内容についてお聞かせください。


櫛田: もともと当社は、機械工具や電動工具の卸売業者としてスタートしました。圧着工具、トルクレンチ、ネジカッターなど様々な種類の工具を取り扱っています。販売先となるのは、主にビルや道路の配管及び電気設備関係を手掛ける工事会社など120社以上です。ただし5年ほど前から工具以外にも、携帯電話のアンテナ基地局の配線工事に必要なケーブル管路材や結束バンドなど「材料」の販売も始めています。今では年商のおよそ半分が、材料の売上からもたらされています。 みなさんが携帯電話を使えるのは、全国のいたるところにアンテナ基地局があるからです。携帯電話から発せられた無線電波をアンテナでキャッチし、それを交換機に送るのがケーブルの役割です。基地局は携帯3社のひとつX社さんだけで現在全国に約2万4000ヵ所ありますが、当社はそのうちの10~20%に材料を供給しています。




―材料に目を向けるようになったのはなぜですか。

櫛田: 工具販売の経営環境の悪化が一番の理由です。工具を、安い海外品が売られるホームセンターなどで調達する企業が増えてきたのです。そこで、市販されていない特殊な工具を必要とする携帯電話のアンテナ基地局の通信設備工事などを手掛ける工事業者への営業に力を入れだしたところ、工具だけでなく材料のニーズもあることを知りました。以前から“消耗品”を扱いたかったこともあり、本格的に事業に乗り出しました。工具ではなかなか買い替え需要が望めません。しかしケーブル等は定期的に交換する必要がある。だから消耗品をやりたかったんです。

――同業他社の多くが業績を落としているなかで、黒字経営を続けているのは、ビジネスの幅を広げた結果といえますか?

櫛田: おっしゃる通りです。携帯電話関連の工事を数多く手掛ける有力工事会社への営業が成功し、継続的な取引を続けているからです。

―それを成し得た要因は?

櫛田: 顧客ニーズをとらえたサービスを徹底し、信頼獲得に努めた結果といえるでしょう。現場の作業を滞らせないスピーディーな納品はもちろん、施工現場の作業員が求めれば深夜の納品も厭わないという姿勢が評価されたのだと思います。先日も、眠そうな顔をして出社した営業社員に「昨日は帰りが遅かったのか」と聞いてみると、夜遅く地下鉄構内のインクス(IMCS)工事の現場に商品を届けていたとのことでした。インクスとは地下やビル内でも携帯電話が使えるようにするシステムのことで、その工事は終電後の深夜から始まります。その時間であっても、要望があれば出向くのが私たちの流儀です。 昭和59年に会社を立ち上げた当時、私自身が営業、配達、経理の仕事をこなしていました。そのときに、現場の要望に応じたサービスこそが受注獲得の一番の早道と肌身に感じたので、それを社内に徹底させています。顧客ニーズの吸い上げは、12名の営業社員(本社7名・福岡営業所3名・仙台営業所2名)を中心に行っています。

―営業社員の教育に熱心だと聞きました。

櫛田: サッカーに例えれば、営業はフォワードです。彼らをいかに“点取り屋”に育てられるかが、売上拡大のカギを握るからです。
 営業教育の一番の基本は、挨拶と身だしなみの徹底です。そのため社内でも、「行ってきます」「ただいま」の挨拶は元気な声で言わせるようにしています。なぜなら社内で言えないのにお客さんのところで言えるわけがないからです。また、「営業日報」にこまめに目を通し、商談の進捗状況に応じた適切な助言や指示、あるいはクレームの対処法などをケースバイケースで教えていくことも、私自身が行うべき社員教育の一つと考えています。

■毎月の売上高を報告し社員のやる気を高める

―営業社員の士気向上を狙って、業績に応じてボーナスが増えることを明言しているそうですね。

櫛田: はい。朝礼もしくは営業会議で1ヵ月あたりの売上や利益を『FX2』から出力した《変動損益計算書》などの帳表を用いて報告しているのは、そうした理由からです。実際、その数字を見てやる気を出す社員は多いんですよ。「頑張れ、頑張れ」だけじゃ社員は頑張らないけど、具体的な数値目標と達成度合いを示してあげればモチベーションは高まるものです。
『FX2』は3年前に原田会計事務所にお世話になりだしたのを機に導入しました。月次決算を通じて毎月、正確な数字が把握できるようになったからこそ、こうした取り組みが行えるようになったといえます。

長谷川: タイムリーに業績をつかむのに『FX2』は最適なツールであることから導入を薦めました。

―『FX2』ではどんな帳表を活用していますか。

櫛田: 一番よく見ているのは《全社業績の問合わせ》の画面です。『FX2』のすべての道はここにつながっていると思えるほど経営の意思決定に必要な情報が詰まっています。A表(売上高)、B表(変動費)、C表(固定費)などのなかに前年同期に比べて突出した異常値を見つけた場合は、ドリルダウン機能を使ってすぐに原因究明にあたります。

―特に注意して数字の動きを追っている項目は何ですか。

櫛田: やはり限界利益です。強い会社を目指すためには、限界利益を少しでも大きくすることが絶対条件だからです。

―限界利益を高めるためにはどんな手を?

櫛田: 値下げを要請されるのが我々の業界の常ですが、付加価値の高いサービスを通じて値引きしなくても受注が獲れる体制をつくることが重要なポイントだと思っています。あとはいかに経費を削減できるかということ。とりわけ「接待交際費」の削減に努めています。ただし接待交際費を適度に使っていかなければなかなか受注を取れないのが我々の仕事です。ただ単純に減らせばいいという訳ではありません。要所、要所でお金を使うことも必要なのです。前期より400万円マイナスの年間800万円程度に抑えるのが今期の目標です。

■四半期の業績検討会で予算対比をチェック

――『継続MAS』を使って次期の経営計画を作成しているそうですね。

櫛田: はい。今まで『FX2』で前年同期の比較はできましたが、これからの時代は目標を定め、その達成度でチェックする仕組みにしなければ黒字経営を続けることはできないと思いました。いわゆる「プラン・ドゥ・チェック・アクション」を回す仕組みに改めたということです。

長谷川: 次期の売上高の伸びや目標経常利益など《5つの質問》を聞いたうえでラフな予算を立案し、さらにツールボックスの機能を使って勘定科目ごとに細かい数字を設定しました。

――期首に立てた経営計画の進捗状況についてはどのようにチェックしているのですか。

櫛田: 年に4回行う「業績検討会」でチェックしています。メンバーは、各営業所長や経営幹部など7~8名です。

――どんな事項が検討の議題になるのですか。

櫛田: 当初の予算に対して実績(売上と経常利益)がどうだったのかをみます。何か問題点があればその解決策をみんなで考えます。他にも、売上が伸びた営業所の成功要因などについても話し合います。例えば、2年前に福岡の業績が大きく伸びたときの要因は、ある通信関係の特殊な材料の売れ行きが好調だったことにありました。それまで、その商品は東京や仙台では販売していなかったのですが、すぐに取り扱いだしたところたくさんの注文が来ました。

長谷川: 業績検討会では、5ヵ年の経営計画書も資料として配り、中長期の視点から今後の戦略を検討することもしています。最近は、金融機関をはじめ対外的な信用をさらに高めたいとする櫛田社長の意向から、「自己資本比率をどう高めるか」「キャッシュフローをどう改善していくか」等が議論の中心になっています。

――5年後の目標を達成するために今後、何が必要ですか?

櫛田: 自社オリジナル商品の販売量をどこまで増やせるかが課題となるでしょう。これまでに特殊なフッ素コーティングをした『絶縁工具セット』等を企画・開発してきましたが、より多くの利益を得るためには自社商品を積極的に販売していく必要があります。最近は、『ロッドカメラ』と名付けた、天井裏や床下の配線状況を知るのに役立つ小型カメラを商品化しました。筒状のスティックの長さを数段階に変えられるとともにカメラの向きを自由に固定できる点が特長です。カメラで撮った映像をパソコン画面に映し出すこともできます。「こうした商品が欲しい」という顧客の声にもとづいて開発した商品だけあって、すでに注文が相次いでいます。


(本誌・吉田茂司)